中銀カプセルタワービル見学ツアーに参加してみた

痛々しいほどの老朽化は否めない

ガイドは、このツアーを主催するMさん。ご自身が、このビルの数部屋を所有していらっしゃるとのこと。オーナーならではの詳しい話が楽しみです。

ビルは全戸で140戸と、当時としてもかなりの規模です。今も、居住スペースとして暮らしている人や、事務所で利用している会社や個人、別荘のように使っているオーナーなど、さまざまな人たちが利用しているということ。
特に羨ましかったのは、クリエイティブ系の人がここを事務所にすると『打ち合わせしに、そっちへ行ってもいいですか?』という相手の興味から、仕事に繋がることがあるらしいという逸話!賃貸物件もたまに出たり、マンスリーのショートステイもあるとのことで、思わず料金を調べる…

建設から48年も経過している建物は、あちこちの劣化が隠せません。その特殊な構造や維持管理と権利関係からか、メンテナンス会社も管理を諦めた(!)ほどらしく、アスベストという厄介な建材が使われているのも、取り扱いを難しくしている要因の一つ。
すでに給湯設備が壊れてお湯が出なくなっているため、入浴は近隣の他の施設頼み。エレベーターも、いつ動かなくなってもおかしくないという話でした(当日の参加者8人ほどで一杯のゴンドラ内の緊張感たるや!)。東京湾からの潮風による腐食の影響か、あちこちで雨漏りもあるそうです。
各部屋は吊り下げられている構造なので、2019年秋の大型台風では、かなり揺れたとのこと。下を通る配管も、結局はすべて上の部屋を外さなければ交換もできないのが現実とのことでした。

茶室であり、船室である小宇宙

部屋に一歩足を踏み入れると、正面の巨大な円形の窓が真っ先に目に入ります。差し込む光が、神々しくすら感じます。
この窓は二重窓になっていて、外側へは開かないものの、内側に大きく開く構造でした。ただ、そのためには、開けるだけのスペースを確保しておかねばならず、ベッドなら置けそうですがなかなか厳しそうでした。
部屋は5畳ちょっと程度なので、やはり窮屈な印象は拭えません。確かに現代のカプセルホテルや、ビジネスホテルのような雰囲気です。
壁側には木製の大きなキャビネットが取り付けられています。懐かしのオーディオセットの横の天板を引き出せば、デスクスペースに。ユニットバスとトイレは、他で見られないほどミニマム。現代の航空機や新幹線のトイレ並みです。

円窓や戸棚のあしらい、ドアのアール部分などを見ていると、宇宙船のような、船室のような印象を受けました。ガイドのMさんの解説によれば、『黒川 紀章は茶室をイメージしていた』ということで、一瞬で納得できました。確かに、円窓のブラインドは、障子そのものの装いです。実際に、入居者の中には、和室に改築している方もいるとのこと。

そう考えれば、茶室に住む人なんていないわけで、『あれがない、これが不便』をいうのも筋違いな気がしてきました。『ボロボロになりつつある茶室という小宇宙で、如何に快適に時間を過ごせるか?』を皆さん工夫しているんだと思えば、いろいろなことが納得できます。やっぱり好きかも、ココ<3

茶室であり船室の雰囲気
茶室であり船室の雰囲気

なお、このビルと同じカプセルが単体で、埼玉県さいたま市浦和区の北浦和公園に、屋外展示されているそうです(市のサイトでもほとんど触れられず、扱いも結構雑…)。残念ながら、中には入れませんが、窓と入口から中をじっくりと覗けます。無料で入れるエリアの常設展示なので、こっちの方がゆっくり見られるかも。

時代のタイムカプセル

気鋭の建築家であった黒川 紀章のアイデアは確かに先進的だったものの、技術や材料、法制度が追いついていなかったり、結局はメンテナンス性に課題があったようです。アイデアとしては交換可能だった各ユニットも、交換するにはそれより上層のユニットを一度全部外す(!)しななく、現実には、建設以来、一度も交換されたことはないとのこと。
東京という巨大都市の変化が、あまりにも早過ぎたのもあるでしょう。この時代を先取りした建物が、逆に、周囲が加速度的に変化する中でそのまま残されて、時代のタイムカプセルのような状態で現在に至っているのは、何とも不思議な感覚です。

皆さん、きっと同じことを考えるんでしょうが、私も『もし、今の技術でこのビルを造り直したら…?』ということを妄想しました。長くなったので、それについてはまた別のエントリーで。


中銀カプセルタワービルは、ちょうど、書籍出版のクラウドファンディングを実施中です。残り約一週間なので、興味がある方はぜひ支援を!