マッチングサービスTinderを試してみたところ、相手とのメッセージのやり取りというプロセスが、フェイクアカウントを見分けるのに思った以上に有効でした。まるで、映画『ブレードランナー』でレプリカントを見分ける質問のよう。
また、そのやり取りは、より自然かつ強力になった生成AIを、効果的に使うためのプロンプトにも、共通していると感じました。そんな、本来の目的(?)から大きく逸脱した、「対話」を意識して興味深かった話。全然暇じゃないのに!
この記事が役立つ・役立たないポイント
この記事はこんなポイントで書いています。
- リアルな人とのコミュニケーションや合意形成
- ますます狡猾になる、フェイク情報を見分けるヒント
- より人間に近づく、ChatGPTなど生成AIとの良好な対話・指示
- ビジネスマッチングを成功させるためのアプローチ
- プライベートでもビジネスでも、マッチングサービスで嫌な思いをしないためには
一方、これには役立たないので悪しからず。今や、東京都謹製のマッチングサービスがアナウンスされるカオスですから、今すぐ他へどうぞ。
- Tinderやペアーズ、タップルなど、マッチングサービスの使い方
- Tinderの有料サブスクリプションについて(別で実験予定)
- 婚活や恋活情報、恋人と出会える秘訣
マズさを指摘するのは、フェイクの助長になるのでは?
そもそも、詐欺の手口やサービスの脆弱な箇所を具体的に指摘するのは、基本的にNG。敵にヒントを与えることになってしまうので、セキュリティー的にはよくないアプローチです。
しかし、今回はその心配は不要。なぜなら、こんな個人の指摘が無くても、そう遠くない将来「騙す技術も劇的に改善されてしまう」のは間違いないからです。
史上初めてローマ教皇がG7サミットに出席した時も、AI規制の必要を訴えました。今年は、世界人口の半分が投票に関わる選挙イヤーで、秋にアメリカ大統領選挙を控えています。4年前とは比較にならない、宗教や政治への世界的リスクが懸念されています。もはや、一つのマッチングサービスがどうこういうレベルの問題ではありません。
『ブレードランナー』でレプリカントを見分けた「フォークトカンプフテスト」
Tinderの詳しい使い方や設定は大して重要ではないので、別で触れます。
Tinder (ティンダー) | 世界最大級のソーシャル系マッチングアプリ
まず、Tinderでは、自分が登録したプロフィールを元に、アルゴリズムが相手を選び出してレコメンドされます。そして、自分と相手の双方がLIKEしてマッチすると、メッセージのやり取りができるようになります。ただし、プロフィールの属性でユーザー検索したり、誰からLIKEされたかを見たり、マッチする前にメッセージを送る機能は有料というわけ。なかなかよく考えられた、女衒システムです。
この、マッチした相手と短いメッセージを何度か繰り返すプロセスで、フェイクかどうかを高い確率で判別できるのが、実に興味深いのです。
これはまるで「フォークトカンプフテスト」。正確には「フォークト=カンプフ感情移入度検査法」と呼ばれるこの手法は、フィリップ・K・ディックのSF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』と、それを原作とした映画『ブレードランナー』に登場するテスト。脱走したレプリカント(アンドロイド)を炙り出すために、主人公デッカードは専用装置を使い、相手にさまざまな質問を投げかけながら、光を当てた瞳の光彩の動きを見張ります。
Blade Runner (1/10) Movie CLIP – She’s a Replicant (1982) HD – YouTube
メッセージのやり取りからフェイクだと推測できるポイント
つまり、SF作品と同じテストを、デバイスをスマホに変えて、なぜかリアルにやる羽目になったというわけ。私が相手への質問で意識したことや、問いのポイントは以下です。これらの質問(と写真やプロフィール)を組み合わせて、相手がフェイクかどうかを判別できます。
- 投稿している写真やプロフィールの内容について、詳しく聞いてみる。
- 日本語話者だという相手には、日本語特有の倒置法や体言止め、主語の省略を組み合わせてみる。
- 日本語として違和感がある表現を書いてきたら、それについて少し深掘りしてみる。
- 住んでいると主張している場所について、具体的なことを尋ねてみる。
- 質問だとすぐにはわからないような、「?」マークを使わない尋ね方をしてみる。
- (なぜか好まれている)名言・格言が書かれていたら、それについて詳しく聞いてみる。
- 外国籍の人には、その国や言語でよく知られる著名人や作品、出来事、慣用句を混ぜる。
- 質問を無視して答えなかったら、適度に間を置いてさら問いしてみる。
- ある程度の往復があった後、過去の話題について言及してみる(まずここまで辿り着かない)。
- LINEやカカオトーク、WhatsAppへの誘導や仮想通貨、投資の話が出たら、放置してみる。
正直、生成AIが革新的に進歩している昨今、想像以上に会話の精度が低過ぎることに驚きました。ChatGPTレベルのAIではなく、精度のあまり良くない翻訳サービスを使って(恐らく外国籍の)人が操作している印象です。また、フェイクのプロフィールを(恐らく大量に)捏造・登録する人またはシステムと、チャットで受け答えする人は、別々のように思えます。人を安く使い潰す方が効率的なことを知っているのは、システム屋ですから。
Tinderに登録して2週間ほどしてからは、フェイクの可能性が高いアカウントが表示されると、敢えてLIKEしてみるようになりました(ある意味、はまった…)。マッチした相手とメッセージによる対話に進んだら、後の流れはほぼ以下です。
- まずは軽く挨拶と雑談。
- こちらの(表示される名前ではなく)リアルの名前を聞いてくる。
- 住んでいる場所や仕事について聞いてくる(ことも)。
- (唐突に、以前は生活が大変だったが今は成功したという短い物語)
- LINEなどへ誘ってくる(かなりせっかちな展開が多い)。
- こちらからTelegramを推奨すると、消えていくか放置モード。
フェイクアカウントは、コスパ・タイパ最優先で、時間を掛けた交渉は鼻から頭にない様子。なので、例えばプロフィールで映画やサッカーをタグ付けしている割には、好きな作品やチーム、選手名を挙げられないし、そもそも質問に答えません(わざわざ検索してまで回答しないらしい)。せいぜい4往復で正体がバレて、かなり強引に外のメッセンジャーに誘います。
そして、こちらからTelegramを提案する時、『仮想通貨や投資詐欺避けになりますよ』という一文を敢えて添えると、なぜか『連絡先が交換できないような、信用できない人は求めていない!』的な罵りで終わりますw「Telegram除け」が効くのは、LinkedInのspamと同じようです。
一度、フェイクだとバレバレの相手に、つい『バカな日本人男性は、どれくらい引っ掛かるものなんでしょう?寂しさが狂わせる認知という心理に興味があります。』と素で尋ねたことがあります。すぐに、『何を言っているのかわかりません』と返されて、恐らくブロックされましたw とにかく、煽り耐性は実装されていないようです。
ゴルフ月品や強力ワカモトのネオンを背に、閑話休題…8時間のBGMで。
Blade Runner | DARK SOLITUDE | AMBIENT music for Work, Study and Relaxation – 8 Hours – YouTube
生成AIで良好な結果を得るのに重要な問い・指示であるプロンプト
今回のことで改めて感じたのは、生成AIの使い方にも通じる「問いと指示」の重要性についてです。良好なアウトプットを得るには、適切なインプットが必要だということは、散々指摘されているとおり。質の高い結果を得るための、スムーズな対話と的確な指示であるプロンプトは非常に重要です。Tinderなんて、とっくの昔にどうでもよくなってる(笑)。
生成AIの場合は、同僚(コパイロット:副操縦士)だったり、優秀な部下として一緒に働いてくれることが、主に期待されています。相手に特定の役割を期待して質問したり、まして作業を命じるのは、Tinderの使い方とは違うのは当然です。ただ、前提となる基本情報や知恵、意識、考え方、趣味などを交換または指定するプロセスは、その多くが共通しているように感じます。
強力になったAIも複数登場していて、毎週のように大きなアップデートが続いています。「生き馬の目を抜く」とは昨今のような状況をいうんでしょうか。ただし、プロンプトはGPT-4o前後では指示の仕方が変わっています。ちょっとだけ試して飽きた人や、たまにしか使わない人はアップデートが必須です。最新のナレッジをまとめている人たちの情報がいろいろあるので、大変参考になります。
GTP-4o/Gemini/Perplexity/Claude時代のプロンプト
従来から、効果的だと言われていた相手に役割や立場を与えるステップは、引き続き有効のようです。目的や仕様を、冒頭でコンパクトに示すのも重要です。この辺りは、文章を書くときの導入部としてのリードや、Webページの内容を示すmeta descriptionsにも通じています。
- 目的や前提条件を詳細かつ簡潔に提示する。
- 生成AIが果たすべき役割と、伝えるべき対象者像を指定する。
- 可能なら、回答例・成功例を示しておく。
- 制限やスタイル、出力フォーマットを指定する。
- 複雑な問いは、いくつかのステップに分ける。
- 複数のペルソナまたはAIで、ディベートさせる。
- わからないことを無理に答えさせず、『わからない』と答えることを許可する。
- 得られた結果に対して反論してみたり、わざと間違った指摘をしてみる。
- 得られた結果をベースに、さらに高度な品質向上を複数回要求し続ける。
- (文字数指定はできないので、最初からラフを前提に編集は自分で)
ただし、これらの一部は、対話ではなくストレスフルな尋問や命令。なので、人間相手にやると、上手くコミュニケートできないどころか、かなりの確率で揉めるでしょう。Tinderでなくても、部下や同僚、取引先に言ったら、確実に関係性が悪化するので、混ぜるなキケン!
生成AIを使ったライティングについては、その後の続報を公開してはいませんが、その後、一部の実務でも使って範囲も広げています。毎週のように目まぐるしく変化していますが、ローラーコースターのような面白さがありますね。乗ってしまった以上、怖がりながらでも楽しんでいくつもりです。同じように興味がある皆さんたちとは、引き続きいろんな接点があることを願っています。興味関心がある人は、ぜひお気軽にお声掛けください。
対話をしたがらない様子は、東京都知事で見た光景並…こんな居心地の悪さを抱えたまま、もうしばらく様子を観察してみています。
なお、Tinderというマッチングサービスの基本情報や特徴はさほど重要ではなくなったとはいえ、いろいろ気付いたことがあります。また、一部のアカウントは、写真とプロフィールを見ただけでも、フェイクであることがある程度わかります。折角なんで、これらについては次回で詳しく。