
前回は、Tinderをきっかけに対話やコミュニケーションについて考えたことを、書き連ねてみました。メッセージのやり取りを繰り返すことは、フェイクアカウントを見抜くだけでなく、そもそも意思疎通できる相手かどうかを判断するのに非常に有効です。さらに、生成AIに的確な指示であるプロンプトを通じて指示し、目的の出力結果を得るのにも重要な役割を果たします。
Tinderを通して気付いたことが他にもあるので、今回はアプリやサービスとしてのUI、画像系生成AI、フェイクアカウントのプロフィールについて書き残しておきます。欲望が滾る獣たちがうろつく荒野の緊張感だけが、生き残るために必要な動物的感覚としての、プロファイリングスキルを鍛えるのさ!
Tinder (ティンダー) | 世界最大級のソーシャル系マッチングアプリ
この記事が役立つ・役立たないポイント
今回も、この記事はこんなポイントで書いています。
- リアルな人とのコミュニケーションや合意形成
- ますます狡猾になる、フェイク情報を見分けるポイント
- より人間に近づく、ChatGPTなど生成AIとの良好な対話
- ビジネスマッチングを成功させるためのヒント
- プライベート・ビジネスのマッチングサービスで、騙されるリスク回避
一方、これにはほとんど役立たないはずなので、さっさと他を当たってください。
- Tinderやペアーズ、タップルなど、マッチングサービスの使い方
- Tinderの有料サブスクリプションについて(別で実験予定…でももう飽きてる)
- 婚活や恋活情報、恋人とコスパ・タイパ重視で出会える秘訣
魑魅魍魎に溢れるTinderという荒野に足を踏み入れて
私はそもそも、興味が湧いたらできるだけ一度は自分で触ってみるスタンスで、「穴があったら割と入ってみる派」です。女性用の月経管理ルナルナから、仮想通貨のWorld Coin(こっちについてはまた今度)まで。必要ならVPNやTor、別の電話番号や人格を使っても、その世界に触れてみることがあります。昔は、わざわざ「治安の悪い設定にした携帯電話」を、普段使いのデバイスとは別に持っていました。
世界で最も使われているソーシャルデーティングとも呼ばれるサービスTinderも、数年前から存在は知っていました。ただ、実際に使ったことはなかったので、何かきっかけがあったとかでもなく、あまり入念下調べもせず登録してみることに。
アプリのダウンロードや設定は、いろんなところで紹介されているでしょうが、以下は、私が実際に使ってみて、気になったり気付いた点です。
Tinderの設定や機能で気になった点
- ジェンダーの設定が細かかったり、新型コロナウイルスワクチンの接種歴があるのは、リアルな社会状況の反映。
- その反面、政治的スタンスや、ヴィーガン、ハラール、アレルギーなどのパラメーターは無い模様。国で設定が違うということはない?
- なぜか言語設定が無い。自分が使える言語としてプロフィールの中では選択できるが、OSを見ているのかも?(未検証)。
- 身分証明書の確認は、撮影条件がよくなかったのか、複数回跳ねられた後でやっとパス。
- 顔認証は、自撮りで本人確認されるものの、金融機関ほどの3D認証的な厳密さではない。
- 生年月日はともかく、一度設定した名前が変えられないのは意外(アカウントの削除と再登録しかない)。
- 表示されるプロフィールの「あり」「なし」の取り消しができない!どちらにしても、有料。
- 旅行者用に「パスポートモード」という設定がある(円安で海外旅行が遠のいた市民には、羨ましい限り)。
- 写真を拡大・保存したり、テキストをコピーできない。
- 友だちや知り合いへの身バレ・顔バレを回避するのに、連絡先を読み込ませるオプションあり。むしろこっちが恐ろしい!
- ユーザーを検索するのは有料。それでも、反ワクチン・反マスク陰謀論者、自公維支持者、MAGAやQanon、新自由主義者、原理主義者などをフィルタリングはできない。
- ブロックしたアカウントを一覧で確認したり、解除する機能はない。
- サブスクリプションプランは3つ。Tinder Plusは、例えば1,000円/週、3,300円/月。Tinder Goldは、1,500円/週、5,000円/月。Tinder Platinumだと、2,000円/週から24,000円/6ヶ月まで。
- ただし、プランの料金は急激な円安の影響か、ここ数ヶ月でサブスクリプションの料金が高騰した模様。しかも、なぜかWebサイトには価格が表示されず、アプリでしか出ていない。
- 日本のアカウントでは、なぜか12ヶ月プランが表示されない(そこまで長期に使い続けるのは、むしろユーザー側に問題がありそう…)。また、好みの相手により接近できるTinder Selectという機能も、日本では未提供。
- アプリの通知設定はバッジ以外オフにしていても、何もアップデートがないのにバッジが表示される。タップを誘う、あざとい仕様だということに徐々に気づく。
- モバイルアプリだけでなく、デスクトップブラウザーでも使える。上司がやってきた時にサッと画面を隠してExcelっぽい画面に切り替えられる緊急モードは、情シスがないような仕事向けというより、ただの遊びでは。
フェイクアカウントと規約違反の多さに辟易しながら
Tinderでは、相手とのメッセージのやり取りの前に、登録された写真が目に入ります。「なし」なら左、「あり」なら右へスワイプ。そのためか、「ルッキズム(見た目で判断)重視のサービス」と考えられているそうな。むしろ、ルッキズムを助長しないマッチングサービス(例えば、同じ本がスキとか)があることが意外でした。また、やってみたいサービスが増えた…
Chapters bookstore / チャプターズ書店公式 / トップ
とにかく、Tinderのビジュアル面も少し触れておきましょう。想定どおり、生成AIで作られたと思われるプロフィール写真が表示されます。公的な証明書と顔認証、有料プランである程度は身元が担保されているとはいえ、程度の差はあっても、他のマッチングサービス系も似たようなものかもしれません。
ただ、顔の立体で判断される顔認証までパスしたフェイクアカウントは少な目。しかし、これもそう遠くない将来、無意味になりそうですけど(そう考えると、個人情報や年収証明書などでガチという、東京都がリリース予定という婚活アプリを若年層が割と支持するのも、わからなくはないか…)。
写真からフェイクだと推測できるポイント
- MidjourneyやStable DiffusionのAsian Modelで生成できそうな、いかにもアジア系美人顔。
- 自分の顔ではなく、後ろ姿や、スマホで顔を隠した写真、上から見下ろす足下、ボディーパーツの一部など。
- さらに、ゴージャスな食べ物や旅行先の景色、ブランド品や高級車、ゴルフ、ペットの写真。
- 顔がハッキリ写っている場合も、なぜか認証済みマークが取得されていない。
- 海辺や草原でドレス姿など、モデル並みにシチュエーションを盛りまくったショット。
- 絵画の中に顔だけ合成したり、動物のパーツを合成した、言い訳しやすい写真。
- 言語に日本語だけが設定されているものの、背景が明らかに日本ではないアジア。
- リアルな人物では人気の、Instagramのキラキラエフェクトは使われていない。
- とにかく『こんなステキな人がTinder使ってるわけない』という直感は多分正しい!
ただ、明らかな生成AIの人物でも、一時期制限があった指先の不自然さや、変な日本語の看板は無いようです。
また、AIではない、他人のリアルな写真をパクったんじゃないかと思われる投稿が時々目に入ります。流石にちょっとこれは見分けがつかない。他のマッチングサービスからのパクリなのか、Webで公開されていた写真なのか、顔だけ合成しているのか、そこまでは追っ掛けていません。しかし、もしかすると区別できてないだけで、すでに超リアルなAI写真かもしれません。
プロフィールからフェイクだと推測できるポイント
- 同じ(ような)テンプレート文章の使い回し。
- 写真はあるが、プロフィールがほぼない。特に記述式項目。
- 写真が違うが、同じ外部へ誘導(ほぼLINE、規約で禁止)する、複数のアカウント。
- 自己紹介の文章と、自分が使うと示している言語が一致していない。
- 日本人を装っているが、使われている漢字が日本語ではない。
一部のアカウントは、プロフィールまたはチャットで、LINEやInstagram、カカオトーク、WhatsAppに誘導したがります。パパ活かロマンス詐欺の香りしかしません。LINEも、検閲除けなんでしょう、カタカナにしたり、間に記号やスペースを入れたり。アカウントも、アラビア数字ではなく、記号文字にしたり、漢字やひらがなにしたりと、あの手この手。LINEが同じ誘導先なのに、写真やニックネーム、位置情報、プロフィールなどをランダムに割り振っているようです。簡単にフィルタリングできるはずなのに、運営が放置している状態。
一度、面白いことに、完全にテンプレートだと思われる内容を、そのまま公開しているアカウントがありましたw 定型文をベースに、差し替える部分にパラメーターが設定してあって、適当に生成してコピペされるはずがミスしたんでしょう。意外でも何でもありませんが、どこかのクリックファームで、ビジネスとしてやっているんでしょうね。
後は、「岡」「直」「渋」「区」など、日本語と中国語フォントで表記のゆらぎが混じっているのは、分かりやすい要注意のフラグ。ただ、他のソーシャル系アプリではこれらは問題なく変換されているので、原因はよくわかりません。
通報を続けた結果、思いもしない展開に
Tinderでは、以下の2つが横行しているように感じます。感覚からすると、全体の8割ぐらいはこれ。そして残りは、相手に誠実さや真剣さを求めているものの、自身は微妙な人とか…ダメだこりゃ。
- 組織的なビジネスとして、偽装されている可能性が高いアカウント
- 本人が個人で使っていると思われる、規約違反しているアカウント
フェイクではないものの、著作権や肖像権に無関心な人は単にリテラシーがないんでしょうが、結構な多さにもちょっと辟易。キャバクラやコンカフェ、ガールズバーなど、サービス外への誘導や商行為は、禁止なのに目に付きます。
3人連続して通報すると、その先はエラーで一定時間操作できなくなってしまいます。恐らく、短時間の連続通報を制限しているんでしょうが、フェイクや規約違反であっても、賑やかしのためにはある程度残しておきたい、ビジネス上のグレーな都合も感じます。何で、ユーザーに巡回監視業務やらせんだよ!Xのコミュニティーノートかよ!!
同じLINEに誘導している複数のアカウントでも、自分からの距離が全部違うということは、対面を必要としない仮想通貨や投資など、オンラインの詐欺なんでしょう。通報しても、また写真と名前だけが違うアカウントとして流れてきます。運営、仕事しろ。
それでも私がフェイクアカウントを通報しまくっていたからでしょうか。マッチしていたアカウントは、どんどん消えていくようになりました。試しに、貯めていた?フェイクアカウントを5つほどまとめてブロックしたところ、それ以外のアカウントも複数がごっそりいつの間にか消えていました。操作・管理していたのが同一の詐欺チームだったのかもしれません。
キレイでいい感じのビジュアルがずっと続いた後に、いきなりマグショットのような風貌や、意味不明な食べ物、風景が続くので、その落差に驚きます。まるで、見せかけの釣り物件を並べた後に、渋々リアル物件(それも微妙な…)を出してくる、賃貸不動産屋のよう。
うんざりしてきたので、ルーマニア在住の女性にてきとーにLIKEしたりしているとついに、15,000km先のサンパウロにいる毛むくじゃらのおじさん(!)を、レコメンドされるまでに至りました。一定のしきい値を超えると、ユーザーの条件設定を完全無視するようです。おい!
マッチングサービスに限らず、対話以外にも登録している写真やプロフィールから、そのアカウントがフェイクだと判別できる点がいろいろあります。嘘をつき続けるには、しっかり(?)とした詳細なプロフィール設定が必須です。突っ込まれる箇所が多くなる余計な情報をできるだけ与えないことは、隠されることによるミステリアスな魅力という、相乗効果がありそうです。
プロファイリングは、これらの多様な要素の掛け合わせで精度が上がります。ひよこの性別鑑定のように「フェイクアカウント鑑定士」資格があれば、かなりいい線いける気はします。
その後はもう、「自分が騙す側だったらこういうやり方はしない」とか、「それは下手だからこっからやり直し」とか、演出と編集のダメ出し視点で見ていました。相手へのアプローチの仕方や、シナリオの組み立てなど、いくつもツッコミポイントがあるんです。ただ、それを指摘するのも、相手の思う壺。戦争中に民家の壁にわざと斜めにした絵を飾っておいて、水平垂直になるように動かすと爆発する仕掛けのような臭いがします。
ビジネス系のマッチングサービスやクラウドソーシングも、ここまで酷いとは思いたくありません。ただ、質が玉石混交でコミュニケーションコストがやたら高いという点では、厳しいのは同じ気も…結局は、モデレーションか。
そして、留まるところを知らないのが、生成AIの機能強化。テキストの入力に対して上質な回答を返すだけでなく、写真と区別が付かない静止画やビデオ、人間的な感情表現まで交えた音声など、生成品質が爆上がりし続けています。毎週のようにAIのブレイクスルーが起き続けている今、プラットフォーマー側がどんな対策を取るのか・敢えて放置するのか?生成AIで、何がどれぐらい汚染されるのか?個人として、上手く識別したり、フィルタリングする方法はあるのか?
仕事でもプライベートでも、情報が高速で流れていく殺伐とした荒野を生き延び、信頼できるパートナーとの縁を紡ぐには、知恵と力が必要のようです。やっぱりね、何をするかも重要ですけど、誰と組むかがカギな気がますますしてます。信頼できる人は、センサーであり、フィルターであり、メディアですから。
なお、対話で重要だとされるナラティブとノンバーバル、そしてストーリーテリングのヤバさについては、また思うところがあるので、別の機会にでも。