『子どもが体験するべき50の危険なこと』G. Tulley, J. Spiegler

普段、『やってはいけません!』と大人からいわれるようなことばかりを集めた一冊。丁寧に書かれた教育指導書であると同時に、大人に向けた宿題帳だ。

読む前は、一応、長い間大人をやっている(つもり)なので、6割ぐらいはやったことがあるだろうと思っていたが、ギリギリ半分しか経験していなかった。日本向けに微調整されているにも関わらず、だ。

内容は、ひと昔前の子どもなら誰でもイタズラでやっていたようなことだ。「ナイフを使う」「目かくしで1時間すごす」「走っている車の窓から手や頭を出す」「強風の中で手作り凧をあげる」「やりを投げる」「ミツバチの巣を探す」「車を運転する」「指を瞬間接着剤でくっつける」、などなど。いざという時には周りの大人からこっぴどく怒られたり、場合によっては見て見ぬ振りをしてくれたりしたが、今はそれも難しい。

各項目のトビラに付けられた小さな注意マークが、端的かつシニカルで面白い。「04 フランス人のようにキスであいさつしよう」の場合だと、[気持ち悪い][ひっぱたかれる][はずかしい]の3コンボといった具合で、かなり身も蓋もない。もし、1つ危険を克服するたびにこれらを集めて眺めたら、勲章のように輝いて見えることだろう。

検索して、最初から危険なものや失敗を避け、成功だけを知ったような気になれる昨今、他者が決めたルールに敢えて反することをしてみる。最低限の安全は確保した上で、危険なことは危険なこととして、肌感覚レベルでリアルに体験する。よくわからないことを無闇に恐れず、自分にとっての安全を確保するスキルを磨く。そんな、やり残したがまだまだあることに気づいたり、ハラハラしながら子どもを見守れるだけの度量があるかを、大人の側が試される。

『著者が言ってるだけで、できるだわけないだろう』『昔はともかく今はなぁ』『欧米だったらそうかもしれないけど…』という思考停止は、ここにある50個とは違う、より深刻な危険かもしれない。途中にあったこの一文が、とても強く心に残る。

『世の中には、正しい方法よりも、楽しい方法のほうが勝つことがあります』

楽しい宿題の提出期限は「生涯」らしいので、元子どもとしてもゆっくりひとつずつチャレンジしてみたい。