民主的な投票の仕組みクアドラティックボーティングを使ってみた

クアドラティックボーティングという用語を聞いたことはありますか?これは、一人一票よりもさらに民主的な視点を持った、新しい投票システムの呼称です。台湾の天才IT大臣オードリー・タン氏が紹介しているのを知って感銘を受け、この投票の仕組みをいつか使ってみたいと思っていたんですよ(東京オリンピックに合わせた彼女の来日が中止になって、ホッとしてます<3 世界の叡智は大切に守らねば)。

彼女のインタビューを読むと、どうもこのクアドラティックボーティングという仕組みは、Ethereumコミュニティーで発案されたようですね。Ethereumは、仮想通貨にも使われる分散型アプリケーションの、オープンソースのプラットフォームですが、ここからスピンオフしたアイデアのよう。

実は、私がこの3ヵ月お邪魔してきた専門学校九州ビジュアルアーツ(福岡市博多区)さんの授業で、企画提案書の作成とプレゼンテーションの授業の機会がありました。そこで、審査結果の投票の仕組みとして、このクアドラティックボーティングを使ってみようと準備していたというわけです。

ただ、シラバスの関係上、授業で実施したプレゼンテーションが仮だったこともあり、実際にはまだ本番運用前なんですが、折角手順や説明資料も揃えていたので、この機会に概念とサービスを紹介しておきます(主に、自分自身が忘れないように…)。

クアドラティックボーティングって何?

quadraticとは、二次方程式における「二次の」です。通常の一人一票とは違う、基本の考え方さえわかればとてもシンプルかつ合理的です。
クアドラティックボーティング(Quadratic voting)ではまず、有権者に一人当たり総ポイント数で99ポイント(pt)を付与します。このポイントは、票を投じるごとに「平方倍のポイント数」を消費していきます。つまり、以下の通りです。

1票 1×1 = 1 pt
2票 2×2 = 4 pt
3票 3×3 = 9 pt
4票 4×4 = 16 pt

9票 9×9 = 81 pt
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有権者が持つ総ポイント数 99 pt

有権者が持つ総ポイントは、99ポイント(pt)/人。候補者が複数いる場合、例えば、自分が最も支持する候補者が一人いたとしても、最大9票(81pt)までしか投票できません。18pt余るため、この残りを全部を使い切るには、他の候補者にも投票する必要があります。特に支持する候補者がいない場合は、さらに分散することになります。
このようにして選択肢を増やすことで、多様な意見を取り入れ、民主主義を促す投票の仕組みが、クアドラティックボーティングです。

  • 有権者が持つ総ポイント数は、99ポイント(pt)/人。1票を投じるごとに「平方倍のポイント数」を消費していく。
  • 複数の候補者に、複数の票を投じられる仕組み。余った票を敢えて投じないことも可能だが、推奨はされない。
  • 一人の候補者に投票できるのは1回。「9票プラス1票」のような投票は不可(当たり前)。

クアドラティックボーティングを使うと幸せになれる人

  • 現場の真の評価をより公平かつ丁寧に拾い上げたい人々
  • 民主主義の危機を肌身で感じる現代に生きる社会人
  • テクノロジーによる解決に希望を抱いている未来指向の皆さん

クアドラティックボーティングのココがいい!

  • 特定の候補者にだけ票が一極集中することなく、少数派の多様な意見を見える化できる。
  • 二項対立や、敵対組織の悪魔化を回避できる可能性がある。
  • 票を換算するポイント(pt)を■でビジュアル表示すると、概念が非常にわかりやすい

クアドラティックボーティングのココはイマイチだったり要注意…

  • 全然知られていない。基本となる概念を理解するまでは、複雑に感じられてしまう。
  • 簡単に集計できるサービスやツールが少ない。日本語にもほとんど対応されていない。
  • 今回紹介しているようなWebサービスは、メンテナンスでダウンしたり、サービスが終了することがある。
  • 独裁を画策したり、対立を煽る権力者には非常に都合が悪い仕組みなので、徹底的に無視したり全力で妨害してくるはず。

RadicalxChangeというWebサービスを使ってみる

クアドラティックボーティングを集計できる、WebサービスやGoogleスプレッドシートはいくつかあるようですが、個人的に一番操作性がよかったのがRadicalxChangeというサービスでした。コレを使ってみます。

RadicalxChangeって、どんなサービス?

  • クアドラティックボーティングで投票できるイベントを設定し、自動でポイント(クレジット)を集計できるWebサービス。
  • イベントが終了すると、投票者は誰でも集計結果を閲覧できる。
  • 集計結果は、Excelフォーマットでダウンロードできる。
  • スマートフォン表示にもある程度最適化される。決して見やすい・投票しやすいとはいえないものの、大きな問題はない。
  • 無料で使える。

RadicalxChangeを使うと幸せになれる人

  • クアドラティックボーティングの仕組みを実際に試してみたい人
  • わざわざ自分でExcelやGoogleスプレッドシートで作りたくない人
  • 紙で集計する非効率に耐えられないビジネスワーカー

RadicalxChangeのココがいい!

  • 投票者ごとに投票先のURLが自動生成される。
  • 投票者の投票後に、すぐに集計結果が表示されることがない。期間中は、ダッシュボードにアクセスできるのは管理者だけ。イベントが終了すると、URLさえ知っていれば誰でも集計結果を閲覧できる。
  • 「開始日時」「終了日時」の日付は、システム時間(日本はそのままJST)。
  • 投票者は、「締切日時」前であれば、後から投票結果を編集できる。
  • イベントは、一般公開としても設定できる。

RadicalxChangeのココはイマイチだったり要注意…

  • [-]ボタンをタップし続けると、投票数がマイナスになってしまう!
  • 選択肢をCSVなどで一括登録できない。
  • 「終了日時」を0時台に設定できない?(未検証)
  • メールアドレスを設定する機能はないので、管理者用URLをコピーし忘れると、ダッシュボードにアクセスできず、集計結果もわからない。
  • 一度イベントが設定されると、編集できるのは「開始日時」「終了日時」だけ。イベントの「タイトル」や「詳細」「候補者」および「投票者」の追加や削除、名前の変更はできない(確かに、これができると正当性が阻害されてしまう)。
  • 投票者の情報として、「名前」以外にメールアドレスや電話番号を入力するカスタムフィールドは追加できない(「名前」のフィールドに入力することは可能)。
  • 「開始日時」「終了日時」の日付は、24時間表示に変更できない。
  • 表示言語は英語のみ。イベント「タイトル」や「詳細」、「候補者」名は日本語入力と表示が可能。
  • ローカルでは動作しないので、このサービスまたはネットワークがダウンしている場合には使えない。

RadicalxChangeの使い方

使い方はいたってシンプルです。デスクトップでイベントを登録し、スマートフォンで回答する例で説明します。

  1. RadicalxChangeにアクセスして、[Set Up Event]ボタンでイベントの登録画面を開く。
  1. 「タイトル」や「詳細」、「有権者数」、「有権者一人あたりのポイント(クレジット)数」、イベントの「開始日時」と「終了日時」、「候補者の詳細」などを登録する。後で編集できるのは「開始日時」「終了日時」だけなので注意。
  2. イベントを登録すると、詳細が表示される。「イベントURL」「管理者URL」「投票URL」をメモ。「投票URL」は、有権者一人ずつに生成されるので、テキストファイルとしてダウンロードしておくのが便利。

  1. 有権者にURLをシェアする。有権者は、投票画面にアクセスし、[-][+]ボタンをタップしながら、候補者それぞれに投票していく(マイナス票も入力できてしまうが、集計時に有効投票としてカウントされない)。投票状況に応じて、■表示されているポイント(クレジット)が増減するので、残りがどれぐらいあるか視覚的に把握できて便利。
投票スタート
投票スタート
  1. 投票がすべて終わったら、[Submit Votes]ボタンがアクティブになるので、投票する。
各候補者に投票数を割り当てる
各候補者に投票数を割り当てる
  1. 投票完了。ダッシュボードで自分の投票結果を確認するか、締切前なら投票を変更することも可能。
  2. 管理画面では、有効票とポイント(クレジット)が棒グラフで表示される。結果は、Excelファイルでダウンロード可能。
  1. 投票を変更する場合は、変更前の投票数も表示されるので、変更の前後を把握しやすい。

このクアドラティックボーティングという投票の仕組み、よく考えられていると思いませんか?小学校の授業などでも使われても不思議じゃないほどだと思いますし、機会があれば(機会を作って)、実際に使ってみます。

何より、大事なのは自分事としての参加意識。古い仕組みが機能しないなら、アップデートしていくのは当たり前ですからね。