
それを目にするだけで、胸や鼻の奥がツンとしそうになるマークもなかなかないんですが。

水産資源の保護を目指して作られた「MSC認証」という仕組みがあります。百貨店やスーパーマーケットでも、この青い魚のマークが貼られたパックを見掛けることも増えました。これを制定しているMSC(Marine Stewardship Council 海洋管理協議会)曰く「海のエコラベル」で、乱獲防止や環境保全、安全な加工や流通を考慮した、持続可能な水産天然資源の確保など、一定の基準を満たした商品にのみ貼られています。
2010年当時、私はビジネスマッチングサービスを通じて、宮城県女川町にある水産加工会社の方から声を掛けていただきました。アラスカで獲れる、MSC認証マーク付きキングサーモンを使った商品を開発中で、その食品パッケージやラベル、レシピシートを作りたいというご相談でした。
ちょうど、別件でCSR(企業が果たすべき社会的責任)関係の仕事をしていたこともあり、商品の位置づけはすぐに理解できました。
担当の方に電話とメールで何度かヒアリングし、わざわざ開発中の商品サンプルや、地元女川産の海産物を送っていただきました。今まで食べたことがない肉厚で上質なサーモンは、特製のバジルソースにもよく合いました。成果物を作って無事に納品し、ご満足もいただけて、一旦終了。販促として、Webサイトやソーシャルメディア、百貨店のオンラインショッピングなどの話も出ていました。
そして、翌年の3月11日。
私の東北との繋がりといえばその取引先だけだったので、心配になってすぐに連絡してみました。もちろん、その時は、現地の惨状など知るはずもありません。結局、その担当者も会社にも連絡が付かず仕舞いでした。そして無残にも、その地域が「壊滅的被害」であることを報道で知りました。一晩中、鳴り止まない緊急地震速報を背に、タイムラインに釘付けになっていました。
その後、かなりの月日が経って、その方が津波で犠牲になっていたことを知りました。地元のニュースや一般の人のブログなどを見た限り、多くの従業員の方も亡くなっていたようでした。Googleマップのストリートビューで、行くことがなかった社屋や工場跡を虚しく眺めていました。会社自体が存続できなかったのでしょう、Webサイトもほどなくしてアクセスできなくなってしまいました。
慈愛に満ち、多くの恵みをもたらしてくれる海。その一方、残酷で凶暴な姿を強烈に見せつけた大自然。持続可能な、しかし限りある命というリソースの循環。行かなかった女川沖、行くことはないだろうアラスカ湾。
デパ地下の食品売り場でうっかりこのマークが目に入ると、何ともいいようのない気分になります。塩が効き過ぎた鮭を、口いっぱいに頬張ったわけでもないのに。