『心を上手に透視する方法』トルステン・ハーフェナー

表情や身振りなど人間が誤魔化せないサインを見逃さず、人の次の行動を予見するばかりか思考すら誘導できる—マジシャンによるマインドリーディング的な思考を解説した本だ。

人は、自分が考えていることが顔や態度に出るだけでなく、逆に、表情や姿勢などが考え方や感情にも影響を与えている。特定の方向に意識が向いていると、自然と身体や視線がそちらを向き近づいていくが、思考と直結している五感は全てを同時には知覚できない。

また、人は見たものを自分の経験に当てはめる。習慣や経験から得た古い思考パターンを変えられず、無意識のうちに、対象のイメージを自分の期待に合わせて作り上げる。

著者は、これら人間の肉体が示す微妙なサインや思考の特性をヒントに、マジシャンとしての経験や独自の演出、心理学的な先人の知恵などをミックスして、人間の頭と身体、そして心の間にある「ゆらぎ」を鮮やかにコントロールしてみせる。その未来の行動予測の正確さが、透視とまで称される理由だ。

実は自分でも、意識しているかどうかはともかく、紹介されている手法のいくつかを取り入れていることが多かった。他者の言動でも、絶対にこちらの視線を拾わない交渉相手など、思い当たる節が多々ある。ただ、ここまで深く意図したり観察できてはいなかったし、まして利用するなど簡単にできるものではない。

紹介されている一部の例は、日本人には馴染みが薄い挨拶としての握手やハグ、ファーストネームで読んだりする風習や、近年減ってきたとはいえ、名前ではなく肩書きで呼びがちな日本企業や組織の慣例なので、そのままでは通用しにくいかもしれない。しかし、ほとんどが人種や文化、身体的な差異に関係なく作用し、自分でもチャレンジしたくなる観察眼だ。


人は、感じたいようにしか感じない。自分の思考を通して、外の世界を選んで繋がっている。世界は、自分が考えているように存在する。自分が何を表現するかではなく、他者にどう受け取られるか、というコミュニケーションの本質を再認識させられる。

ただ、無意識と意識とを操る強力なパワーを知る著者だからこそ、人を混乱させて感情を操ることで占いや催眠、詐欺のテクニックとしても悪用できてしまうほどの技術を、思いやりを持って他者のために使えと説く。この辺りは、著者の大きな転機の一つが悲劇を契機にしているせいだろうか。

人の行動は思考と直結しているので、思考を集中させることで目標を達成させることができる。目標が達成できるとはっきりとイメージし、信じて、そのために具体的な行動を取る。運が良い人は、運が悪い人よりもチャンスを見つけやすい。長年、もやもやと胡散臭く感じていた「ポジティブシンキング」「引き寄せの法則」に代表されるような考えのいくつかが、初めてスッキリと腑に落ちた。

ちょうど、この本を読み終わったのがW杯ブラジル大会で日本が敗退した後だっただけに、非常に辛いものがあった。プロスポーツ選手などは、最も意識と行動の直結ができているだろう人々なのに…。

いや、だからこそ選手たちには、またピッチに戻って躍動する姿を見せてもらいたい。巻き起こる出来事は変えられなくても、先入観を持たずに変化を受け入れることで、どのような状況下でも自分でコントロールできるはずだと、本書を信じつつ。