
ビジネスのスピードとコミュニケーション、ツールについて、象徴的なことがあったので、それについて書いてみます。
以前、とある経営者の方を訪問して取材する機会があったんです。相手は初対面で、私より上の年代の男性。しかも、クライアントからは、『あのワンマン社長は、ちょっと変で癖も強いので、注意した方がいいかもしれませんよ…』と、釘を刺される始末。行く前から、あれほど気が重かった訪問先も珍しく(笑)。
いやいや、注意しろといわれても、何をどう注意すればいいのか。取材というより、企画提案の説明の役回りだったので、かなり気分がダウナー気味だったのは確かですが、『癖だけなら、地味ながらこちらも別に負けるわけじゃなし…』と、謎の開き直りで向かいました。
訪問先は、そのグループ企業の本部。まったく知らない土地でもなかったとはいえ、遅刻厳禁もいわれていたので、近くで時間調整までして訪問しました。今考えたら、手土産の一つも持たずによく行ったなと思いますが、何となくそういうので誤魔化したくなかったんです。
さて、挨拶もそこそこに、早速、企画提案をコンパクトに説明しつつ、顔色と反応を伺いながら話を進めます。と、話をしている途中でその社長が、『ちょっとすまんね』といって、目の前でいきなりガラケーを手に、電話を掛け出すではないですか!また、掛かってくる電話にもガンガン出るので、話は度々中断する始末。
これは、ビジネスマナーの常識だと完全NGなんでしょうか(ビジネスをお作法化するのは、個人的にはかなりアレですが…)。しかし、内容が打ち合わせのテーマに直結していたので、私は悪い気はしないどころか、そのスピード感に感心したのです。圧倒的に速い意志決定は、中華圏のビジネスマンのようでした。
確かに、通話には高い情報解像度があります。予定調和な仕込みのないリアルタイムの音声によるコミュニケーションは、打ち込み文字の比ではないですし、タイムラインで流れるスタンプレベルでカバーしきれるはずもありません。息づかいや抑揚といったバーバルな情報だけでなく、仕草や表情などノンバーバルなニュアンスもセットで伝えあえる、大きなメリットがあります。
その一方、通話の最大のデメリットはタイムシフトできない非対称性。その人にとっての緊急性と、そうでもないこっちの状況や都合のマッチングができません。ログで残したり、検索できないのも使い勝手が悪いところではあります。
結局、メリットをデメリットが上回っていれば、ツールや手法は何でもOKなんですが、見極めが本当に難しくなっていますよね。その理由は、デバイスやサービスが多様化・多層化しているのはもちろん、組織に導入されているサービスやセキュリティー設定、スタッフ個人のスキルなど、いろいろな条件が複雑に絡み合っているから。いきなりFacebookメッセージを送ってくる人や、Facebookコール、LINE通話のゴリ押しもたまにあります。デバイスやツールが変わっても、メソッドがアップデートされていない例です。
後半は、その社長の考えを聞く側に回り、もらっていた時間をかなりオーバーして、熱く語ってもらいました。『折角来てもらったあんたには悪いけど、パソコンやるよりこっちの方が速いから』という台詞もありましたが、その社長の数々の指摘は、個人的には至極ごもっともなことばかりでした。残念ながら、そのプロジェクトには反映されることはありませんでしたが、何度『こういう意見や指摘、企画の前に知りたかった!』と感じたことか。全然、変でも癖が強いでもなく、実は真っ当じゃん!そんなもんです。
メールの往復を繰り返したり、プロジェクトにタスク登録して精度の低いPDCAを頑張って繰り返すより、ガラケーの電話1本の方が、精度と速度が素晴らしいことがあり得る。外部からの、現場からの鋭い視点や感覚が重要なのであって、ツールは成果を最大化するための武器にすぎない。そんな当たり前のことを再認識した出来事でした。