
著者の付けたタイトルは、中身を裏切るミスリード気味のタイトルだ。著者が明治学院大学の教授だった当時の「言語表現法講義」の内容をまとめた内容だが、少なくとも「13日で名文が書けるようになるための、作家によるノウハウ本」ではない。
著者はまず「上手く書けるようになる」ことを否定する。感想文の価値を否定する。意識するのは点数などではなく、相手にどうやったら伝わるか。
曰く、文章は誰にでも書けるし、すでに書いている、という。全然「名文」「いい文」など意識しなくても、その人なりの文章になるし、結局世の中のすべての説明文は「自己紹介」なのかも、と学生たちに向かって語り掛ける。そもそも、万人受けする名文などが存在し得るのか?とも問う。
著者は学生たちに対して、書くことの根本である「考えること」へのさまざまなアプローチを示す。ありきたりな自己紹介の文章を書くよりも、自分について考えてみることの大切さを訴える。
扱っているテーマは、人生に世界、AV嬢、ラブレター、恋、日本国憲法、カフカ『変身』、右利き・左利き、演説、詩、私と、流石は著者の視点のラディカルさを示している。
ある時は、ハーヴェイ・ミルクのスピーチを読ませ、またある時は、詩を書いた本人に成り代わって心情をイメージし、吐露させる。校正や編集といった小手先のテクニックではない、物事に対するビジョンやスコープを提示するスタンスは、寛容でありながら鋭利だ。
自分のことを振り返っても、文章表現の「正しさ」を求めて添削や校正することの方が簡単かもしれず、欠点やミスの近くにあるその人ならではの魅力を活かすのは本当に難しい。学生と共に著者自身が大いなる気づきを得る2週間は、読者をも巻き込む濃密な成長記録でもある。