出歩けないGoogleマップコントリビューターの私ですが、日頃からGoogleマップの「行ってみたい」リストに、世界各地のいつか行きたい場所を登録しています。国内の大半は飲食店なんですが、新型コロナウイルスによる影響が深刻さを増す中、残念ながらそのいくつかは、閉店してしまっています。
オーナー兼店主が一人で切り盛りしている零細というより、従業員を雇って店舗も複数ある中小の飲食店が本当に厳しい状況のようです。死活問題ではなく、死。利用者としても、行ける場所がなくなると、生きていけなくなるのに…
そんな中で、奈良にあるとんかつ店「まるかつ」さんがテレビ番組に出演したのを知り、オンデマンドで見ました。ちなみに、店長はついにTEDx登壇!
このお店は、2018年4月に福井が豪雪に見舞われ、道路で立ち往生した車の中で、ドライバーが何日も過ごさなければならない状況で、支援をするツイートが話題になったので、知っていました。その後も、エビフライの話をネタにしたり、子ども食堂を始めたり、なかなか興味深いなと思って「行ってみたい」リストにずっと入っている場所です。
番組の中では、金子店長の開業からのいろいろなエピソードが紹介され、福井の豪雪当時の店長のツイート時間やキーワード、拡散状況についても、ソーシャルメディアの専門家の人が分析していました。私はそれらに加えて、この店長のツイートが評価され、その後のまるかつさんの集客へと繋がったポイントとして、以下の点に注目してみました(以下では『TwitterはSNSではない』という点は、一旦保留して話を進めます)。
発信のチャンネルがTwitterだった
まず、店長が使ったプラットフォームが、人ではなくイシューにフォーカスし、「今」を伝えるTwitterだったことが、最大の効果を引き出したと思います。驚くべきは、当時の店長のアカウントのフォロワーが、わずか10数人だったということ!もしこれが、FacebookやInstagram、LINEだったとして、同じように拡散されたとは思えません(しかし店長、なぜTwitterやってたんだw)。
現場にいる当事者が最初にリツイートした
番組では、リツイートした人たちが取材されていました。車の中に閉じ込められていた当事者ではなくとも、福井にいる人たちが、店長のツイートを見て、反応していたようです。福井と奈良というのが、地理的だけでなく心理的にどのような位置関係なのかはわかりませんが、現場にいる人たちにとっての自分事として、感情を大きく揺さぶったことは間違いありません。
ムーブメントが拡大するきっかけは、いつも発信者の次の支持者です。
信頼できるITパートナーが周りにいた
店長は、Twitterには詳しくなかったとのことでしたが、もしツイートにハッシュタグが使われていれば、もっと確実にスピーディーに拡散されていたかもしれません。
しかし、ITビジネスについて相談できるパートナーが周りにいたことが、大きな力になりました。商売がなかなか軌道に乗らない頃に通販事業に乗り出そうとした時に、それを冷静に止めた人がいたことは、大きなポイントだと感じました。今は、新しく通販事業をスタートさせているらしいですが、もしその時と同じパートナーさんなら素晴らしい関係だと思います。
成功の秘訣は、ソーシャルネットワーク以外にあった
また番組の切り口をバッサリ否定しますがw、この店長の成功(途中)の要因は、別にTwitterじゃありません。もちろん、認知を広げるブースターやアンプとしての役割を果たしたことは間違いありませんが、そこじゃない。
上質でおいしいとんかつをお客さんに届ける信念、ノウハウやテクニックはともかく、思いついたことをやらずにはいられない行動力と情熱、素直さ、そして、どんなに絶望的な状況でもユーモアや工夫を忘れない姿勢。そこにたまたまソーシャルネットワークがあっただけです。ご本人の性格や思考は、誰も真似できません。
緊急事態だからこそ、ちゃんと食べることが必須!
先日、自分用の焼鳥のお持ち帰りとしては、ささやかながら過去最高の金額を使いました。しかも、初めて行く店で。これは全く新しい消費に貢献したようでいて、結局は、普段行ってる飲食店に落とす金額の一部が回っただけなんですよね。
まだ訪れたことがない場所や、ごくたまにだったり数回しか行ったことがない店でも、そこが消えてしまうのは、影の薄い客にとっても地味にダメージになります。『そういうあんたみたいな人がお金落とさないから、店が消えていくんじゃん!』というのは確かにそうなんですけれど、いきなりもしくは密かに目の前から取り上げられるような仕打ちは、実はボディーブローのように地味に堪えてくるものなんです。
人は生きている限り、楽しく過ごそうが落ち込んでいようが、腹が減ります。アルコールを飲みたい時もある。飲み食いという極めて動物的な行為は、生きることに直結しているわけで、だからこそ嫌な場所や相手とは共にできないんです。そして、緊急事態が日常になった今だからこそ、ちゃんと食べて、寝て、休まなければ、頭も体も、そして心も動きませんから。
今の状況でソーシャルネットワークをどう利用していくか?
新型コロナウイルスで厳しい状況が続く中、飲食店がまるかつさんの真似をして上手くいくとは限りません。ソーシャルネットワークのエンゲージメントで、家賃や従業員の給料は払えません。テイクアウトの情報がなかったり、導線が上手く繋がっていない店も少なくありませんし、ガイドライン違反している店も、未だにちらほら見掛けます。自分たちで適当にSNSをやったり、変な飲食コンサルにGoogleマップを任せていた店が、生き残れるかはわかりません。
けれども、ソーシャルネットワークを効果的に使わないと生き残れないのも事実です。自分の言葉で、自分のメッセージを伝えるチャンネルを適切に管理・運用していくことは、これからの命綱です。温かい料理は、温かいうちに提供した方が喜ばれるのと同じ。食べログやぐるなびなどの大手プラットフォームに完全に依存していては、激変とその後に続く長く厳しい状況には対応できない。ただ、『助けてください!』ばかり連投しても、長続きする共感にはなり得ません。
まるかつさん以外の飲食店、地味でおいしい店も、無愛想でも旨い店も、人当たりがいいけど味は微妙なところも、みんな何とかそれぞれのスタイルで生き残っていけることを切に願います。日頃からやっておくべきだったことを悔やんでも仕方ないので、今からでもできることを少しずつやっていきましょう。食べるというのは、生きていくことそのものですから。
ブランドを救うのは、ソーシャルネットワークだけではありませんが、それ抜きでは語れません。もちろん、これは飲食業界に限らないことです。長文をここまで読んでいただいて、少しでも共感したり困っている方は、どうぞご相談ください。自分にも何か役立つことで貢献する、これはこれで私にとっても「課題のテイクアウト」の一つですから。