
中国湖北省武漢市で発生した、新型コロナウイルスによる肺炎が、世界を震撼させている中、パンデミック(病気の大規模流行)をテーマにした、ゲームが話題になっています。タイトルは「Plague Inc.(伝染病株式会社)」。
実際にプレイしてみたんですが、これが思った以上に奥が深く、よく考えられた内容のゲームでした。SDGsや医療情報、ネガティブSEO、ファクトチェック、インフルエンサーマーケティングなどに関心がある人も、今すぐでなくてもいつか、プレイしてみるのもいいかもしれません。
Ndemic Creations
https://www.ndemiccreations.com/
Plague Inc.は、現在の新型コロナウイルスをきっかけに爆発的な注目を集め、世界各国の有料アプリランキングでトップを飾っているようですが、現実世界でパンデミックのたびに、プレーヤーが増えているとのこと(私だよ!)。
伝染病で人類全滅を目指すゲーム「Plague Inc.」に「感染拡大を食い止めて世界を救う」新モードが追加される予定 – GIGAZINE
https://gigazine.net/news/20200325-plague-inc-new-mode/
2012年頃にリリースされているらしく、全世界で7億人以上がプレイする人気ゲームなのだそうです。iOSとAndroid版を始め、PC/Mac/Linux版、Xbox One/PlayStation 4/Nintendo Switch、さらにボードゲーム(これも欲しい!)まである充実したラインナップ。リアリティーに基づいたゲームですが、現実の情報は適切な機関を参照するようにと、CDC(アメリカ疾病管理予防センター)とWHO(世界保健機関)へのリンクも張られています。
なので、流行の話題に乗っかっただけの、単なるジョーク系の不謹慎ゲームとはほど遠い、病気の広がり方やウイルスが発生する複雑さについての、高度な学習コンテンツだと感じました。
Instagramインフルエンサーになってみた
このゲームのゴールは、「Plague Inc.(伝染病株式会社)」というタイトル通り、伝染病を世界中に広げて、できるだけ短い期間で全人類を破滅させる(!)こと。つまり、攻撃者の視点で展開が進んでいきます。逆に、人類がワクチンの開発に成功したり、感染者がゼロになれば負け。この人類最後の希望は「Cure」と呼ばれています。
早速、チュートリアルをプレイしてみます。病気に付けた名前は「イマサラ型インスタバエ」。新種のバクテリアで、感染すると、盛ったオシャレなくしては生きられなくなる設定です。
UIは、一部妙な表現はあるものの、ほぼ十分ローカライズされています。まずは、感染が始まる国を選択するんですが、発展途上国の方が感染が拡大しやすいとのこと。人類に見つかって警戒されたり、治療のワクチンが研究されるのが遅れるほど、ダメージを多く与えられるからです。また、国の場所によって気候も違うため、それに応じた耐性も必要になります。恐らく、人口統計やGDPなども参照しているはずで、パラメーターがいきなり奥深い!
ロケールを判断して国ごと切り替えられているのかどうかははっきり分かりませんが、BGMと一緒に途中挿入されるテレビニュース風のナレーションが、なかなか臨場感たっぷりです(それなりの間隔を置いたループですけど)。
操作は、画面のマップ上にランダムに表示される「DNA」アイコンをタップして「DNAポイント」を集めることで、感染経路を広げたり、病気の症状を強めたりと、いろいろなアクションができるようになります。マップはピンチとタップで、拡大や移動が可能。症状や能力を変えると、途中で、突然変異することも。
病気のステータスは、感染力・危険度・致死率の3つです。感染にはさまざまな経路があり、人が行き来する空港や港湾は、重要な感染経路です。しかし、パンデミックになって閉鎖されても、渡り鳥や昆虫は移動できるので、危険度が上がれば、致死率もアップ。ただし、人類に気付かれると、治療の研究が進んでしまいます。
画面上部には、世界各地のニュースが流れるんですが、これがまたなかなかリアル。各国政府の状況や、世界情勢がアップデートされます。統計データもチェックできるので、感染している国・していない国や、治療薬の開発をリードする国などがわかります。
結局、喜んでいいのか、483日で世界を破滅させることに成功(!)しました。チュートリアルだったのでスムーズでしたが、感染範囲を広げるには、家畜と昆虫を媒介にするのは有効なようです。何より、空港と港湾施設が閉鎖される前に、人間を運び屋にすれば、世界各地に蔓延できます。オリンピック開催国が無策だと、さらに楽(これ、ゲームだよね…)。
フェイクニュースを拡散してみた!
次に、カスタムシナリオをプレイしてみた。地球温暖化や豚インフルエンザ、天然痘など、いろいろと豊富なシナリオから、フェイクニュースチョイス。こんなの、あるんだ…
ちなみに、解説にリンクされているPOLITIFACTは、政治分野のファクトチェックサイト。ピュリッツァー賞の受賞歴もある、正真正銘のホンモノです。スクロールして出てくるのは、もちろんD.トランプ。
Fact-checking U.S. politics | PolitiFact
https://www.politifact.com/
さて、発生国をアメリカ合衆国にしてプレイ!まず、マニフェストで、どのようなフェイクニュースを流すかを設定します。AIを使って、移民に関するネガ情報を流し、ジャーナリストを攻撃してみることにしました。ネットのくちコミからスタート。
チュートリアルで「DNAポイント」だったパワーは、「資金」に変わっています。資金が貯まれば、ネットから地上波に感染経路を広げると同時に、批判する人間やファクトチェッカーを攻撃していきます。この辺りから、フードを被ったブラックハッカー気分。
ソーシャルメディアでインフルエンサーを利用し、文脈を無視したコンテンツや、ミーム、BOTを使ってバズらせます。反対するヤツらや専門家は魔女狩りのターゲットにし、データはもちろん改ざん(これ、ゲームだよね…)。
と、あれこれハッキングしたり、妨害工作をしたものの、結局はファクトチェックが間に合い、フェイクニュースは駆逐されてしまいました。冷静な人類が残っていたようです。
[2021/1/15 追記] アップデート後のインフォデミック(情報汚染)シナリオもやってみました。 ま、結局、騙される人は騙されるんですが :'(
カスタムシナリオを自分で作れる!
このゲームには、オプションで病原体の拡張パックも販売されていますが、さらに素晴らしいのは、オリジナルのシナリオを自分で作って、公開できること!まさに、他のプレーヤーへと「感染」させられる仕組みになっているわけですね。もしかすると、今の、現実の出来事をそのまま反映させているシナリオがすでにあって、アップデートされ続けているかもしれません。現実とゲームとが入り交じります。
非常によくできたゲームであり、教育ツールとしての魅力も感じました。複数人でプレイできるボードゲームにも興味が湧いたので、目に付くところにあったら、手を出してしまうかもしれません。
しかし、現実はこのゲームよりも遥かに複雑かつ危険で、リアルな被害も拡大中です。こうならないために、今、人類が取るべきベストな行動、自分自身ができる具体的なアクションとは、一体何なのか?やはり、そう思わずにはいられませんでした。
2020年春、開発元であるNdemic Creations社から、関係医療機関への25万ドルの寄付と、新しいシナリオの追加が発表されました。元々、このゲームは『伝染病を世界に蔓延させて、人類を破滅へ導く』ことが目的ですが、現実の被害拡大を受けて、逆の『伝染病の蔓延を防ぎ、人類を救う』シナリオが、専門家の監修の元で開発中とのこと。それまでは引きこもってプレイしながら、希望のシナリオとリアルでの実現に大いに期待しましょう。