
久しぶりに映画で強い衝撃を受けた。それも、この世に存在しない作品で。映画『ホドロフスキーのDUNE』は、何かを作ろうとしているすべての人が見る価値があるドキュメンタリーだ。【以下、ちょっとネタバレあり】
これは、撮影されていない映画の痕跡を追うメイキングフィルムだ。何よりも、その制作スタッフや予定されていた出演者が、信じられないほど豪華で素晴らしい。Amazon Primeビデオにもあり、Blu-ray/DVDも出ているので、とにかく機会があれば必ず見てもらいたい。
原作はフランク・ハーバートによる、壮大なSF叙事詩『DUNE』。ストーリーボードの絵コンテやキャラクターデザインがメビウス。デザイン関係の人やキャラクターアート、マンガ好きなら、彼の絵をどこかで目にしているはずだ。特撮担当がダン・オバノンで、キャラクターやアートにH.R. ギーガー。彼らはその後、世界のSF作品に大きな影響を与えることになる。
俳優たちも信じられない名前が並ぶ。皇帝役には、シュールレアリスムの大家サルバドール・ダリ、男爵役には映画界からセミリタイヤしていたオーソン・ウェルズ。妖しいキャラクターにミック・ジャガーを充てたかと思うと、音楽担当はピンク・フロイドと来た。監督が思い描いた、ジャンルを超えた当時最高の人選だ。何ともロックスピリット溢れるではないか。

この、どう考えてもひとつにまとまりそうにないスタッフとキャストを、『七人の侍』の主人公である島田勘兵衛のように、ホドロフスキーは一人ずつヘッドハンティングしていく。彼はこの映画の中で「戦士(ウォーリアー)」という言葉を何度も繰り返すが、手を変え品を変えの人身掌握術によって「魂の戦士たち」を募っていくのだ。
完成した分厚いシナリオは、巨大な立方体のようだ。映画では、このシナリオにあるメビウスが描いた絵コンテを元に、現代のアニメーション効果やカラーを加えた表現で再現される。監督や登場人物が語る声をバックにシナリオ上の台詞が重なっていき、いつの間にか自分で補間して作品として見ているうちにグイグイと引き込まれるのだ。