『名作コピーに学ぶ読ませる文章の書き方』鈴木 康之

著者の視点は、至ってシンプル、至って謙虚だ。

『書こうとする前に聞き上手になれ、書くのではなく読んでもらえるようにせよ』というのが、首尾一貫したスタンスである。目的を果たしてこそのコピーが説明文に徹するために、新しいフレーズを作り出す「無からの創造」ではなく、身の回りにすでにある「有の発見」、クリエーターではなくリスナーである立場を、繰り返し何度も説く。

『どこかから聞いてきたいい話の取り次ぎ』であり、『タネも仕掛けもあるマジックとしての実用文』、『いい文章は幕の内弁当のよう』という喩えも、スッと腑に落ちる。『広告コピーにも、デザイン同様「トーン&マナー」がある』という、王道の話から、『電話口でお辞儀する人を見習え』と、なかなか懐かしいことを言ったかと思えば、『読んでもらいたい人の前に出たらするはずの顔つきで書け』というこれまた本質をおっしゃる。

それでいて、精神論ではなく、漢字/ひらがな/カタカナの使い分けや、句読点の使い方、デザイン的なバランス、絵や図との組み合わせなど、実用的な視点から、いろいろな広告を解説していく。これはすべて、「それでも広告コピーはなかなか読んでもらえない」というプロとしての冷静な視点があるからだ。

取り上げられている事例は、紙媒体が中心だが、基本を貫く考え方はWebのライティングは言うに及ばず、一般の人の文章作成にも豊富なヒントが散りばめられている。