スマホの位置情報で防犯や紛失対策できても、遠隔操作できない理由

『離れて暮らす親にタブレットの使い方を教えたり、スマホを設定しようとしても、自分のスマホやパソコンから遠隔操作できない!』…そんな経験は、ありませんか?そう、モバイルデバイスをリモートで操作できる個人向けのサービスは、ほぼありません。その理由と共に、個人のITデバイスのセキュリティーを考えてみます。

親のモバイルデバイス管理のストレスあるある!

地元にいる親が『タブレットの使い方がわからない!』『スマホに何かメッセージが出て、怖い…』といってくる。『ウイルスにやられたに違いない!』といって騒ぎ出す、『どうせ私なんて…』と拗ね出したり、『右上のメニューをタップしてみて』といっても、『そんなの、ない!』『難しいこといわれてもわからん!』、揚げ句に『大体、お前の教え方が悪い』といって怒り出す始末…。以前は、盆正月の帰省にメンテナンスをやっていた・やらされていたが、コロナ禍でここしばらくそれもままならない。こっちだって忙しいので相手をしなかったうちに、親は近所の携帯電話ショップへ行って、変なプランを抱き合わせで契約させられてた!

こんなことを経験すれば、誰でも企業のサポート担当者が心を病みがちな現実がリアルに理解できます。とはいえ、親のITデバイスを手元で直接操作したくても、遠隔操作したり防犯のために管理できる、高機能でリーズナブルなサービスがありません(少なくともiOS/iPadOS用は)。パソコンなら、リモートコントロールのユーティリティーがありますが、タブレットやスマホだとそれができないんです。

  管理する側(ゲスト)/される側(ホスト)
○ パソコン → パソコン
○ タブレットやスマホ → パソコン
X パソコン → タブレットやスマホ
X タブレットやスマホ → タブレットやスマホ

個人用のリモート操作アプリがほとんどない理由

私は、iPhoneを2019年6月に盗まれました。すぐに取り戻せはしましたが、防犯対策の強化としてすぐに、個人用または小規模ビジネス用のいろいろなサービスをかなりしつこく検索しました。

しかし、ヒットするのは『iCloudの「探す」をオンにしておく』という当たり前のことしか書かれていない記事ばかり。本当なら、例えばカメラやマイクを強制的かつ密かにオンにして、操作している窃盗犯の顔をインカメラで撮影するとか、音声を自動録音するような機能を持つ、強力なサービスが欲しかったんです。有料でもサブスクリプションでも!しかし、ない。

この手のサービスがコンシュマー向けにはほぼ存在しない理由を私が想像するに、セキュリティー上の最大の脅威である人を、少人数の個人や小規模組織レベルでは十分にマネージメントできないからではないでしょうか。デバイスやネットワークの急速な発達と普及によって、ダークサイドまでの距離は短くなり、超えようと思えば簡単に一線を越えられるようになってしまいました。使い方や設定次第では、対策していたはずの自分自身が逆にセキュリティーリスクを高めてしまい、悲しいかな社会的な意味に留まらないリアルな死にすら繋がっているのは、昨今の報道の通りです。

iCloudの「探す(Find My)」は必ずオンにしておこう!

iCloudの「探す」は、自分のデバイスや、Appleデバイスを持つ家族や友だちを、同じ方法で探せる便利な仕組みです。全世界のあちこちに普及しているAppleデバイスから、Bluetooth信号を送信し、その位置関係や距離から、対象のデバイスや持っている人のおおよその位置を探せる機能です。デバイスなら紛失や盗難の追跡に、友だちや家族、同僚なら待ち合わせや移動中の確認に使えます。

人口比でiPhoneの普及率が高い日本だと、都市部とその周辺なら条件は悪くないはず。通信は匿名化されてセキュアなのと、デバイスがオフラインになっていたりスリープしていても機能するのも、非常に心強い限りです。花見や花火大会、キャンプサイトの集合などに便利なんですけどね、人がまた楽しく集まれる日々はいつになるやら…

また、Apple純正の位置情報トラッカーAirTagを併用すると、身の回りのバッグや自転車の盗難対策にもなります。AirTagについては、またいずれ別記事で。

自由な遠隔操作はできないが、位置の追跡ならできる

結局、個人のモバイルデバイスで、遠隔操作や盗難・紛失対策をしたい場合にできる対策は、以下の通りです。冒頭の親に持たせるスマホの例なら、位置情報をチェックすれば外出していることはわかるものの(それも忘れずに持って出れば、の話…)、OSやアプリを代わりにアップデートしてやることはできません。

  • 位置情報を追跡したい:「探す」を必ずオンにし、可能ならAirTagを併用する。
  • リモートで直接操作したい:(デフォルトでは)ほぼ無理なので諦める。

エンタープライズ用なら専用サービスがある

エンタープライズ用のモバイルデバイス管理(MDM)サービスなら、さまざまなリモートの操作や管理が可能です。大企業やコンシュマー向けITサービスのサポートデスクなどで、幅広く使われています。私自身は経験がありませんが、『電話やアプリの通話でサポートの担当者としゃべりながら、向こうから直接タブレットを操作してもらって、トラブルが解消できた』話も聞きます。

私は、iPhoneの盗難事件以前から、MacBook Pro/Airには「Do Not Disturb」という防犯ユーティリティーをインストールして併用していました。開発会社の研究員が元NSA(アメリカ国家安全保障局…そうあのE.スノーデン氏がいた組織!)という点にはいろいろちょっとモヤりつつ、予防策として「探す」と併用していたんです。しかし残念ながら、この一般用サービスは中止されてしまいました。恐らく、会社の主力商品をエンタープライズ向けにシフトしたんでしょう。

『大手企業なら、人というリスクにちゃんと歯止めが効くのか』というと、もちろんそんなことはありません。セキュリティーツールを開発・販売するメーカー自身のマッチポンプも時々、見聞きするたびに、何を信じていいのか分からなくなることも…

個人用の防犯ユーティリティーもあった、古き良き(?)時代

防犯と一般向けのテクノロジーといえば、例えば今から20年ほど前は、監視機能を持つMac用ユーティリティーもありました。実際に私がしばらくPowerBookシリーズで使っていたユーティリティーだと、閉じた天板を開くと、それと気付かれずに自動的にカメラで写真撮影し、ネットワークに接続されたタイミングでそれをメール添付で送信するという、なかなかのスパイガジェット的な優れものでした。

ただ、当時は一般家庭や中小企業のブロードバンド普及が、やっと6〜7割に達しようかという時代。ネットワーク環境やマシンパワーの限界などもあって、残念ながら(幸いにも?)、今ひとつ効果を期待できませんでした。

個人情報の取得や管理についても、メーカーもサードパーティー開発者、ネットワーク事業者、そしてユーザー自身も最低限の注意はしていたものの、そこまで深刻には捉えていなかった時代です。持ち運べる端末が携帯電話とPHS、ラップトップだけで、iPhoneの噂すら立たなかった当時なので、リスクも、そのための対策も、共に牧歌的な時代だったといえるかもしれません。

浮気調査や勤怠管理、エンタメ目的ですら使われる!

時代は下って、現代。スマートフォンと高速ネットワークがライフラインになった今、使い方を誤ると、数年前とは比較にならないほど強いマイナスの影響力を持っているのは明らかです。

実際に、モバイルデバイスを遠隔操作したり、監視する強力なサービスは、浮気調査や従業員の勤務実態調査という、グレーな用途にも最強(最狂?)のツールとなり得ます。検索すれば、それらのニーズに応える広告や海外ツールも多数ヒットします。見ているつもりが見られていたという、ニーチェ的世界がここでも…

そういえば以前、スマートフォンをわざと盗ませて作られた、衝撃のドキュメンタリーもありました。もし今、同じことをやったら、画質や音質、位置の正確さ、人々への影響などはこの比ではないでしょうし、実際に後追いも多数目にします。AirTagにしても、盗難自転車やバイクを見つけたという話もある反面、ストーカーによる悪用とその対策についても、たびたび話題になっています。

安全な快適さと自由との狭間の鬩ぎ合い

年々、セキュリティー対策を強化しているAppleという企業の方針は、いろいろ自分でやりたがるギークたちからは、時に『箱庭の中でしか遊ばせようとしていない』風にも揶揄されます。

もちろん、技術的関心を発端として、「親」が用意したバリアを「子」が勝手に超えて学習していくのは、ある意味宿命であり義務でもあります。ルールをハックしようとする人が現れないと、人々に安全を約束するルールの妥当性は、永遠にアップデートされません。

その一方で、テクノロジーが他者攻撃に悪用されるリスクを管理して、幅広い人たちの幸福を守るのは、プラットフォーマーとしては当然の責任でしょう。技術の発展と、安全の確保という両者のバランスは、常に問われています。


親のスマホを、カメラで鏡に映してもらいながらビデオ会議で何とかしようと奮闘していたMさん、お元気でしょうか?私は、固定電話の子機を持って病院へ出掛けていた祖母のことなど思い出したりしています。

実は、「探す」とは別のサードパーティーのサービスもあるにはあるんです。それについては、またの機会に。